吉良・養泉寺慰霊碑 訓練中に殉職した勇士たち

 戦況も悪化しだした昭和19(1944)年12月30日、海軍の一大基地であった三重県鈴鹿航空隊から飛び立った軍用グライダーがあった。

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     九六式中攻 写真:Wikipedia

それは第1001海軍航空隊所属のク8ー2型滑空機(グライダー)で、第二鈴鹿海軍航空基地を発進した九六式中攻による伊勢湾一周曳航訓練飛行であった。中攻とは有名な一式陸攻の前機種で、中国大陸までの渡洋爆撃機として、日本の航空技術を世に知らしめた機種であった。

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         九六式中攻  写真:Wikipedia

軍用グライダーはク-8 II 型、 軍用輸送グライダーの量産型で乗員2名、積載兵員20名という本格的な兵員輸送を目的として開発されたものという。軍用グライダーを連合軍はノルマンディー作戦で使用しているが、着陸失敗、墜落、地上からの対空射撃による攻撃等で損害が大きかったようである。落下傘部隊より兵員の育成が簡単で、しかも多くの火器が運搬できる利点があった。
間もなく制空権は米軍に奪われ、本土上空までも我がもの顔で米戦闘機が飛来したのでは、グライダー飛行による作戦は立案できず、使用されることはなかったと記録に残る。

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       グライダーはク-8 II 型 九六式中攻  写真:Wikipedia

  そのグライダーが訓練中の昭和19年12月30日、九六式に曳航されたグライダーは当時の愛知県幡豆郡横須賀村大字富田の上空2,300メートルから悪気流のため墜落、搭乗員全員12名が遭難してしまった。矢作古川に近い田園の中であった。ただちに村民が救出にあたり、近くのお寺の養泉寺に収容し、手当てを行うが七名が殉職をした。
当時は、正月は旧正月であったので、秋の取りいれも済み、裏作の麦や菜種の植え付け準備で大忙しの最中であったが、介抱の甲斐なく7名が殉職をした。

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          浄土宗西山深草派 養泉寺

 墜落の話題が覚めやらぬ半月後の昭和20(1945)年1月13日に三河地震が発生する。横須賀村一帯は洪積地で、富田も地盤の悪いところ、マグニチュード6,8の大地震で多くの家屋が倒壊し、搭乗員を看護した養泉寺も本堂が倒壊した。県の文化財に指定されている阿弥陀如来本尊は、住職の機転で余震の間に逸早く移転し難を逃れている。 
同年8月15日に終戦を迎え、その後の昭和60(1985)年9月8日に、復興なった養泉寺に元航空隊隊長が部下の霊を弔うために、慰霊碑建立を発願し完成をした。各地から鈴鹿基地の旧戦友も馳せ、盛大に開眼供養されたという。

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碑文の表は隊長夫人の揮毫によると、養泉寺庫裏に伺う。以後は、五十回忌までは、命日には関係者が遠くからも集まり、また、その後も心ある人のお参りで香の煙が絶えることはないと聞く。

碑文裏は、
昭和19年12月30日、第1001海軍航空隊所属のク8ー2型滑空機、第2鈴鹿海軍航空基地を発進、九六式中攻による伊勢湾一周曳航訓練飛行途中、吉良町上空、高度2,300米において悪気流の為不時離脱遭難した。搭乗員全員12名、養泉寺に収容、地元の方々による献身的な手当てにも拘わらず7名が殉職した。
茲に謹んで慰霊碑を建立し、殉職の英霊に対し深く哀悼の意を表するものである。

昭和60年9月8日                霞三会

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三河の野の一角に、墜落現場を記す小さな石柱が建っている。国の礎となった空の若人を忘れまいとする三河人の優しさで、それは澄んだ穏やかな雲流れる果て、秋の空の下だった。

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この記事へのコメント

りきぱぱ
2010年10月04日 16:36
「それは澄んだ穏やかな雲流れる果て、秋の空の下だった」
なんと心に沁み入る文言。
然し、2,300メートルからの墜落、これはグライダーだから滑空しながらの、ゆっくりした墜落だったのでしょう。
7名の若き魂を失った事は残念ですが、此れが曳航していた九六式中攻で有ったのなら、恐らく全員命を落としていたでしょう。
慰霊碑を建立された方々に、鈴鹿を代表して心よりお礼申し上げます。
この地へ住み始めて20年になろうとしてます。もう鈴鹿人と云っても誰からも責められないでしょう。
片山エビ吉
2017年07月10日 00:50
忘れられつつ有る
出来事、先代の三河人の
優しさが痛く感じられました。
横須賀村、吉良町、西尾市と
変わりましたが忘れたくない
出来事ですね。私は在所は四日市市
今は西尾市に住んでおり,通勤で毎日
吉良に行っております、
近い内に訪ねて見ます。
2017年07月10日 04:54
片山様、

ぜひ、お尋ねください。
戦時のこと、兵隊あるで限りは死と隣り合わせでありますが、まだ不完成のような、ものに乗せられ訓練中では

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